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千反田えるの接待奉仕

 プロローグ

 指定された時間どおりに指定場所へ向かうと、どうやらそこは料亭のようでした。
 店先周りの装飾や立て付けなど実に立派なもので、お店としての格の高さが窺えます。千反田家の用事で父や家族と一緒に何度かこういったお店を訪れたことはありますが、わたし一人でというのは初めてなので、どうしても緊張してしまいます(緊張してしまうのは、別の理由もありますが……)。

「あの、すみません。十九時に長沼で予約していると思うのですが……」
「はい、長沼様のお連れ様でいらっしゃいますね。椿の間で承っております。先にお越しになられておりますので、お部屋の方に案内させていただきますね。どうぞ、こちらへ」

 それでも思い切って近くの――二十代後半くらいでしょうか――仲居さんに声を掛けると、少し眉根を寄せただけで――すぐに弾けるような笑顔でそう言ってくれました。時間帯とお店の雰囲気を考えればわたしは格好も含めて明らかに場違いですのに、すぐに丁寧な応対をしてくれたのはさすがと言えるでしょう。店の質は従業員の質に比例するという良い証明ですね。
 ……ただ、そのように良いお店でしたら、別の機会で訪れたかったものですが。

「…………はぁ」

 お若い仲居さんについて部屋に向かいながら、わたしはこっそりため息をついてしまいます。
 今から行うのは千反田家後継者として大切なお役目であり、わたし以外にできない重要なものだと理解はしているのですが、それでも気が進まないのも確かなのです。できれば事前に心を整える時間が欲しかったのですが、先方に先に来られているのではそれも叶いはしません。
 ですから、今のわたしにできることは、諦めて椿の間に向かうことくらいでした。

「――失礼いたします。お連れ様がお見えになりました」

 そうして着いた一番奥の座敷の前で廊下に片膝を突いて、仲居さんは障子を少しだけ開きながら中に声を掛けます。それから――小粋な動きで――立ち上がりこちらを向くと、

「それではごゆっくりお愉しみくださいませ。失礼いたします」

 丁寧にお辞儀しながらそう言い残し、足音も立てず立ち去っていってしまいました。……少しだけ口元が弛んでいたように見えたのは、たぶんわたしの気のせいでしょう。なにはともあれ、賽は投げられてしまいました。もう後は虎穴に乗り込むほかありません。
 一度深呼吸してから、思い切って障子を開けてみます。

「すみません、失礼いたします」

 それから廊下に正座をして、部屋の中を向いて深々と一礼をしながら中に声を掛けます。返事を待って顔を上げると、八畳ほどある座敷の真ん中に置かれている机の向こうで、座椅子に腰掛けていた男の人がにやにやとこちらを見つめていました。
 確かお年は今年で56才と聞きましたが、外見からはもう少し年嵩としかさに見えなくもありません。あまり人様の外見についてとやかく言いたくはありませんが、もしこの場に摩耶花さんがいたら『狒々ひひ親父』とでも称していたでしょう。つまりは、そう言いたくなるような外見だと言うことです。
 大変ふくよかな体を少し……いえ、かなりお派手なスーツに包んでいます。そんなおじさまがこちらをにやにや見つめているのです。まるで、今にも舌なめずりを始めそうな感じで。
 一瞬体に怖気が走りそうになりましたが、どうにかこらえました。先方の機嫌を損ねてはなにもかも台なしになってしまいます。ですから、わたしはおじさまの姿が見えないように目を伏せながら、もう一度お辞儀をして挨拶をするのです。

「――初めまして。千反田鉄吾の一人娘、千反田えると申します。この度は父の勝手なお願いをお聞きくださりありがとうございます。その御礼といたしましても甚だ身勝手ではございますが、父の名代としてわたしが参らせていただきました。何卒なにとぞ、よろしくお願いいたします」
「おお、初めましてだねえるちゃん。儂が長沼周平、こう見えても県議をやっとる者だ。キミのお父さん――千反田さんには儂もなにかと世話になっとるからね。あの程度の頼み事ならお安い御用というものだよ。ましてキミみたいな美人女子高生が御礼をしてくれるのなら、いくらでも手を出してあげるとも」

 わたしの自己紹介と御礼の言葉に長沼センセイはだらしなく相好を崩すと、はしゃぐように言葉を紡ぎながらわたしに席を勧めてくれました。
 促されるまま、わたしは長沼センセイの対面に腰を落ち着けます。
 机の上には既に豪華な料理が所狭しと並べられていました。握り寿司に鯛のお吸い物、野菜類と海老の天ぷらに新鮮なお造りもあれば煮物、焼き物、酢の物に茶碗蒸しと。一般に懐石モノと呼ばれる料理が目を楽しませてくれます。

「まぁまずはじゃんじゃん食べてくれたまえ。腹が減ってはナニもできぬと言うだろう?」
「はぁ……。それではありがたくご相伴にあずからせてもらいますね。では、いただきます」

 言葉の使い方が間違っている気がしましたが、それを指摘して機嫌を損ねてしまうわけにもいきません。我慢して自重する代わり――でもないですが――に、わたしは箸を手に取り料理に伸ばし始めます。
 そして――

「しかし、やはり女子高生が着るのはセーラー服に限るねぇ。最近はブレザーというものも増えて人気を集めとるようだが、制服は昔からセーラー服が一番と決まっとる。そう思わんかね、えるちゃんは」

「写真で見せられたときにも思ったけど、本当に見事な黒髪だねぇ。まさに鴉の濡れ羽色というやつだよ。近頃髪を染める馬鹿娘が多くなっておるようだが、えるちゃんのような大和撫子がちゃんと残っとるのは実に素晴らしい。ま、美人ぶりは写真よりも実物の方が上のようだがね。そこの入口で姿を見せられたときには、思わず息を呑んでしまったとも。制服で来るように言っておいて正解だったわい。うむ、まさに眼福眼福」

「そういえば神山では旧暦の雛祭りに、生き雛祭りをやるそうじゃないか。それでえるちゃんが毎年生き雛の役を務めてるんだってね。是非その姿を見てみたいから、当日はぜひとも儂を招待してくれんかね。ああ、もちろん、御礼はその夜にでもたっぷりとしてあげるとも」

「ところでえるちゃんは結構背が高いようだが、身長は幾つかね? ほうほう。では体重はどれくらいかね? なるほどなるほど。では、ついでに3サイズなども教えてくれんかね。ちなみに儂のアレのサイズは22センチだから、えるちゃんのオマンコには少し大きいかもしれんが、慣れればなんの問題はないからの。気にする必要はないとだけ言っておくわい。……ふむ。ふむふむ。そうか、えるちゃんは着痩せするタイプだったか。良いことを聞いたわ、これは食後のデザートが実に愉しみだのう」

 食事をしながらも、長沼センセイの言葉が止まることはありませんでした。おまけに内容も反応に困るものが多くて、答えるのに何度か躊躇ってしまうこともあったのです(最終的には、全部答えることになってしまいましたが)。
 そのせいで――と言ってしまうと語弊があるかも知れませんが、口にしているのは大変見事な料理であるはずなのに、食べてもまったく味を感じられないのです。もう少しお話が少なければ、きっと味を愉しむ余裕もあったはずなのにと思うと、残念でなりません。

「――ふむ。これはなかなかに悪くない。どうだね、えるちゃんもちょっと呑んでみないかね?」
「すみません。わたし、アルコールは苦手ですので。できれば……」

 お酒の入ったグラスを片手に、長沼センセイがわたしにお付き合いを勧めてきます。制服姿だと言うこともありますが、元々わたしはお酒に弱い質ですのでご遠慮申し上げたのですが。

「ふむ、もしかして制服のことを気にしておるのかね? それならバレなきゃなんの問題もないから、余計な心配はしなくて構わんよ。ここの女将は儂のコレだから、なにも言わずとも黙ってくれるからね。それにえるちゃんがもし酔っぱらっても儂がちゃんと介抱してやるから、そこも安心してくれて一向に構わんよ」

 それでも強引に勧めてくるので、どうしてもと断ることはできませんでした。
 三分の一ほど入ったグラスを受け取って、とりあえず眺めてみます。日本酒なのでしょう、透明な色がとても綺麗です。それから、おじさまの粘るような視線を受けながら、思い切って口を付けてみました。

「…………あ。おいしい、です」

 日本酒を呑んでみるのは二度目で、一度目は本当に子供の頃で口を付けた瞬間苦くて吹き出してしまったのですが、今回のものはとても口当たりが良く、すっきりして飲みやすいものでした。思わず一口で止まらず、気づけば続けざまに口にしてしまいます。
 そんな風に思い切ってお酒を口にしたおかげで、緊張が解れたのでしょうか。少しずつグラスのお酒を減らしながらお料理に口を付けていると、先程までは感じられなかった味が口中に広がってきました。ええ、思った通りの素晴らしい出来映えです。特に鯛のお吸い物が美味しいですね。丁寧に出汁を取れてますし、味つけも繊細で実にわたし好みです。できれば板前さんに調理法を教えていただきたいところですが――できるわけもないことくらいは、わたしにも解っています。タイムリミットが近づいてきたことも、もちろんです。

「――ごちそうさまでした。とても、美味しかったです」

 それでも、わたしは頑張っていつも通りを装います。それが千反田家の者の誇りですから。

「それなりに量はあったと思うんだけど、みな平らげてしまうとはなかなかの健啖家のようだねぇ、えるちゃんは。これなら食後のデザートも、たっぷりご馳走してあげんといかんかな」
「そうですね、友人達からも驚かれることがあります。お食事の大事さについて、両親から厳しく教えられたおかげでしょうか。……デザート、ですか? 甘いモノは大好きなので、頂けるのでしたら遠慮なくご馳走になりたいな、と思います」

 その言葉の裏側の意味には気づかない振りをして、わたしは無邪気さを装いながらおじさまの言葉に応えます。どうも折木さん辺りは誤解してるようですが、これくらいの腹芸ならわたしにだって――時と場合によっては――できるんです。ただ普段はできないし、したくもないというだけで……

「ふむ、では後でたっぷりとご馳走させてもらうとしようかね。……そういえば、えるちゃん。割とお酒を呑んでおったが、気分の方は大丈夫かい? もし気分が悪かったりするようだったら、奥の座敷に布団を用意してあるからそこで休むこともできるわけだが。どうするね?」

 そんなわたしに長沼センセイは座椅子から立ち上がり、こちらに回り込んでくると背後からわたしの肩に手を掛けて、顔を覗き込みながらそう尋ねてきます。
 成程、あんなに熱心にお酒を勧めてきたのはそういうわけでしたか。合点がようやくいきましたが、今更どうしようもありません。下手な対応をしてご機嫌を損ねるわけにもいきませんし、なによりも体がぽかぽかして気分がふんわりしてきたのも事実ですから、わたしはただ素直に答えるだけです。

「……そうですね。少し頭がぼんやりしてきましたから、休んだ方がいいかもですね。お気遣いいただきありがとうございます」
「おっと、それはいかんな。ひどくならないうちに布団で休むとしよう。――そう、女将にもちゃんと言ってあるから、朝まで儂と二人でしっぽりと休めばいいだろう。えるちゃんだって、今日は帰らないことはちゃんと家族に伝えてあるんだろう?」

 言いながらおじさまはわたしを立ち上がらせると、そのまま奥へと引きずるように向かわせます。その間に手が胸やお尻、股間の辺りを制服の上からイヤらしく這い回りますが、わたしはそれに文句も言うこともできず無言で頷くだけで、その後はただなすがままに任せていました。
 それに気をよくしたのか、長沼センセイは口元をにやつかせわたしの体を抱きかかえたまま、襖を勢いよく開け放ちます。
 襖の向こうには、横長で四畳ほどの奥座敷が広がっていました。その真ん中には一組の布団が丁寧に敷かれています。ただし布団そのものは一組なのに、どうしてか枕だけは二組あるようでした。



 ――つまりは、そういうことなのです。


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